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パリで働く、日本人マーケターのトレンドレポート(34)ナイジェリアの「Stay Home」広告 ― 文化的に効果ある文言を探そう

2021.09.30 山本 真郷 / 渡辺 寧

空いたOOH広告枠に掲示された医療従事者に向けた応援メッセージ

映画ポスター風「空腹な男」(Fada=ナイジェリアのスラングで父という意味)

Vol.34
ナイジェリアの「Stay Home」広告
― 文化的に効果ある文言を探そう

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

アフリカで苦渋の封鎖措置緩和
はやくも密集状態に逆戻り

今月はナイジェリアの「Stay Home」キャンペーンをご紹介します。アフリカ大陸もCOVID-19(新型コロナウイルス)対策で多くの国がロックダウン下にありましたが、一部地域で経済再開に向けて封鎖措置を緩和する動きが出始めています。
医療体制が整っていないアフリカで制限を緩めれば感染急拡大が懸念される一方で、サブサハラ地域では人口の4割が国際貧困ライン(1日1.90ドル=約200円)以下で生活しているため、制限を続ければ感染以前に飢餓が広がりかねない、という深刻な事情が背景にあるためです。

人口や経済規模の面でアフリカ最大のナイジェリアも都市部(首都アブジャやラゴス州)で施行していた制限を5月4日から段階的に緩和し、経済活動を再開させています。政府は国民に引き続き感染予防としてマスク着用や20人以上の集会禁止を義務付けていますが、都市部は生活を取り戻そうとする大勢の人々で溢れかえり、商いの中心であるマーケットでは早くも密集状態が発生しています。貧困層が集うマーケットで集団感染が起きれば爆発的な感染拡大を招きかねません。

「Stay Home」でクリエティブの工夫
貧困層に感染予防をどう伝えるか

この状況を危惧した現地のクリエティブ・エージェンシーThe Hook Agency Lagosが「Stay Home」キャンペーンを企画しました。生き延びることで精一杯な貧困層に、ストレートに感染予防を説いても響かないですし、何よりまずメッセージに触れてもらわなければなりません。そこで、同社は以下のクリエイティブを設計しました。

今起きている事態を「映画」に見立て、「新作映画の宣伝」を模したポスターを密集地の至るところに貼り出す伝達方法が採られました。ナイジェリアでは映画が代表的な大衆娯楽なので、関心を引きやすいだろうという読みです。ポスターの内容は、空腹を抱えた貧困層への訴求力を高めるため、仮想映画のタイトルを「空腹の男」(Hangry Man)とし、以下のボディ・コピーが設定されました。

「父は金持ちが持ち込んだ病気のために家にいないといけないことが理解できなかった。彼は外出し、家にウイルスを持ち込んだ。本当の話です」

ウイルスという見えない敵に対する恐怖に訴える論証ではなく、「金持ち」という仮想敵を設定し「金持ちのせいで感染しても良いのか?」と問いかけることで内発的動機付けを促しています。「金持ちが持ち込んだ」のはフィクションですが、富裕層と貧困層の対立関係を用いる発想はナイジェリアにおける社会的分断の深刻さを現していると言えるでしょう。

男性性の高い文化での広告
腹落ちさせる情報構造を意識

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士は、国民文化を数値化し、文化の相対的な違いが社会の差としてどのように表れるかということを示してきました。ホフステードの研究は幅広い領域で活用されており、マーケティングも活用領域のひとつです。広告を作成する際には、その土地の人々の価値観を踏まえる必要があります。なぜなら、メッセージが現地の既存の価値観とどう紐づくかによって、その広告の受容されやすさが変わるからです。今回のナイジェリアの映画風ポスター「空腹の男」(Hangry Man)は、短いメッセージの中に、文化的に効果的な文言が選ばれているように感じます。

まず、ナイジェリアは男性性が高い(MAS=60)文化です。血が滴るなたをモチーフに選んでいる点から攻撃性を感じさせますが、ポスター内の文章で「彼は外出し、家にウイルスを持ち込んだ。本当の話です」と事実訴求をしている点に男性性への配慮が見え隠れします。

ホフステードとの共同研究も多く、マーケティング/消費者行動の専門家であるマリーク・デ・ムーイ氏は男性性の高い文化では「レポトーク(=情報を伝える会話)」が多く、女性性の高い文化では「ラポトーク(感情をやり取りし、関係を結ぶための会話)」が多いことをデータで明らかにしました。外出し、家にウイルスを持ち込んだ事例があるという事実を伝える事は、男性性の高い文化では理解されやすくなることが予想されます。

また、ナイジェリアは集団主義(IDV=30)の文化です。そのため「家にウイルスを持ち込んだ」と家族集団を想起させることで、集団に対する責任感を喚起させることを狙っているように見えます。

人々が広告に目を向ける時間は非常に短いことが予想されるため、現地の人々がスッと理解し、腹落ちする情報構造を作ることは非常に大切です。異文化理解はその構造を考えるひとつの手立てとなります。

【図】ナイジェリアは男性性が高く集団主義
【図】ナイジェリアは男性性が高く集団主義


WRITER

山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -ホフステード・インサイツ・ジャパン代表取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。

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