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パリで働く、日本人マーケターの“トレンドレポート”(4)

2018.09.18 山本 真郷 / 渡辺 寧

Vol. 4
アフリカ・コンゴの代弁者
華麗なるソーシャル・マーケティング

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

パリの「リトルアフリカ」移民街に現れる“紳士”たち

フランスは移民受け入れ国として長い歴史があり、「人種のるつぼ」と言われますが、その一方で、移民と非移民(フランス人)の間には歴然とした経済的・社会的格差があります。例えば、パリでは移民の居住地が分離されており、その多くが北西部(18~20区)に位置します。同地区にパリの貧困層の4割が集中すると言われ、治安も決して良くありません。

ピカソやモジリアーニなど多くの芸術家の活動拠点として知られるモンマルトルも18区にありますが、その南東にはアフリカ人街・アラブ人街が広がっており、一歩踏み込むとパリであることを忘れてしまうほど雰囲気が違います。

今回はこの「アフリカ人街」で、パリジャンからも注目を集める取り組みをレポートします。

アフリカ人街には、色鮮やかなスーツに身を包んだ紳士たちが出入りする「SAPE & CO」という紳士服店があります。ここに集う人々は「サプール」(Sapeur)と呼ばれているのですが、「サプール」とはコンゴでは「ファッションで平和を説く人々」を指します。貧困と内戦に苦しむコンゴで、所得の大半をブランドスーツに注ぎ込み、エレガントな着こなしと振舞いを追求する彼らの姿勢(ファッション・思想)は近年メディアの注目を集めており、その存在をご存知の方も多いのではないでしょうか。

では、そのサプールがなぜパリにいるのでしょう?
サプールのルーツは諸説ありますが、コンゴを植民地支配していたフランスが深く関わっていると言われています。有力なのは社会活動家のアンドレ・マツワがパリで黒人差別反対の運動を展開し強制送還された際、パリ紳士の装いをしていたことがコンゴ人たちの賞賛を浴び、平和信仰が「ファッション」で表現されるようになったという説です。

このため、サプールにとってパリは聖地とも言える場所であり、実際にコンゴのサプールはパリまで買物に来るそうです。同店の客層は、12年前のオープン時は主にコンゴ本国のサプールや同国からの移民でしたが、今では多くのパリジャンからも支持され、フレンチファッションの逆輸入とも言える状況が起きています。

同店の代表で、自身もコンゴ出身のル・バシェラー氏に「パリで活動する理由」を聞いてみました。「サプールの活動により、コンゴ国民の価値観は確実に非戦・非暴力に向かっているが、身銭を切るサプールは経済的恩恵を受けていない」と指摘。「パリに店を構え、サプール文化を正しく世界に発信することでコミュニティにビジネス機会をもたらしたい」と考えたそうです。また、コンゴ国内の経済循環を高めるため、サプールがローカルブランドを購入・着用できるよう、いつかコンゴにも出店したいと夢を語ります。

一連の取り組みをマーケティングの観点から見ると、サプールというコミュニティが組織のような役割を果たし、「平和」というキャンペーンを華麗に推進するソーシャル・マーケティングの事例と捉えることもできるでしょう。

文化によって意味づけが異なるサプールのファッション

サプールの色鮮やかなファッションの根底にあるのが「平和信仰の表現だ」と言われると、私たち日本人の中には「本当かな?」と感じる人もいるかもしれません。日本人の中には、お洒落をすることは、自分をより良く見せる手段という感覚を持つ人も多いので、「平和信仰の表現」と聞いても、ちょっと腑に落ちないのではないでしょうか。

この日本人とコンゴ人・フランス人の感覚の差は異文化研究の観点から説明することができます。オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステードは、国の文化を数値で示す研究を行っています。【図1】のマトリックスは、個人主義と男性性の2つの軸で日本・フランス・コンゴの位置を表したものです。

【図1】
日本・フランス・コンゴの
「個人主義」「男性性」の位置関係
「個人主義」「男性性」の位置関係
出展)Hofstede Insights Group
*コンゴは調査スコアがないため、
国連分類における同じ中部アフリカの隣国アンゴラの数値より推測

日本は男性性スコアが95で、極めて男性性が強い文化です。対してフランスの男性性スコアは43。女性性が強い文化です。コンゴは調査数値がないのですが、同じ中部アフリカの隣国アンゴラのスコアが18で、仮にこれに近いとすると女性的文化になります。

男性的文化は対立を好みますが、女性的文化は協調を好みます。よって、そもそもフランスやコンゴでは「平和」を打ち出すことは日本よりも価値を感じられやすくなります。

フランスは個人主義スコアが71と高いので、サプールの恰好をすることは「個性の表現」になります。一方、集団主義が推定されるコンゴではサプールの恰好をすることは、「サプール集団への所属の証」という意味であろうと推察されます。「コミュニティにビジネス機会をもたらしたい」というコメントの背景には、こうしたフランス・コンゴの文化差があるものと推察されます。


WRITER

山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -ホフステード・インサイツ・ジャパン取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。

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