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パリで働く、日本人マーケターの“トレンドレポート”(5)

2018.09.30 山本 真郷 / 渡辺 寧

Vol. 5
フランスという「国家ブランド」
華の都「パリ」の舞台裏

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

世界で第2位に位置するフランスのブランド力

企業経営において「ブランド」の重要性が説かれて久しいですが、近年、「国や地域」においても国際競争力を高めるため、ブランディングの取り組みが活発化しています。今回はフランスが自国のブランド力を保つ上で実施する、さりげない取り組みのひとつをご紹介します。

世界50カ国のブランド力を測定した「Anholt-GfK国家ブランド指数」(2017)によれば、フランスは2位、日本が4位と、いずれもランキング上位です。

フランスのブランド力は「文化・観光」項目での高スコアが決め手となっており、まず連想されるのがその美しい「歴史的景観」でしょう。 中でも、パリ市街地は景観条例で厳格に保護されているため、新しい建築が規制され、建物の多くは築100年超です。作家志望のアメリカ人男性が1920年代のパリにタイムスリップし、憧れの芸術家たちと交流する日々を描いたウディ・アレン監督の映画『ミッドナイト・イン・パリ』ではないですが、生活する中で、歴史の中に迷い込んでしまったような感覚を覚えることも少なくありません。たまたま立ち寄った店が「世界史に名を残す、著名人が通っていたカフェだった」なんてことも珍しくありません。

パリ市内に点在する「ニセの建物」の役割とは?

歴史的景観を維持しながら、時代に合わせてインフラを整備するのはそう簡単なことではありません。古い建造物の下にどのようにして下水や地下鉄を整備したのか?など、さまざまな疑問が沸いてきます。

パリでは新たに整備したインフラを隠す手立てとして「ニセの建物」が点在します。建物の正面(ファサード面)は典型的なオスマン建築ですが、扉をよく見ると呼び鈴がなく、窓は黒く塗られ内部が見えません。現地の人もその存在をあまり認識していませんが、これらは建物としては機能しておらず、高速郊外鉄道(RER)の「換気施設」を隠しているのです。実際にあった建物の外周フレームを残し、内部に換気塔が建てられています。日本の換気塔は先進的なデザインのものが多いですが、パリでは街の景観を尊重し、表に見せないというわけです。
これは一例に過ぎないのですが、フランスの「ブランド体験」の質はこうした地味な取り組みの積み重ねによって成り立っていると言えるでしょう。

景観保全にこだわる一方で、パリの街中は「犬や鳩のフンだらけ」でそのギャップにも驚かされます。「エレガンス」を重視するフランスの国民文化は、
景観やファッションなどの目に入る部分に及ぶも、足元までは及ばないのか(靴にフンが付いてもエレガンスを損なわないのか)と不思議に感じます。

「不確実性」を回避するフランス文化の特徴

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステードは国民文化を数値化する研究を1960年代から行ってきました。

この研究から見ると、フランス国民文化の特徴のひとつは「不確実性の回避」の高さです。何かを変えることは環境の不確実性を高めます。この不確実性を受け入れる程度が文化によって異なります。
フランス文化は、この不確実性回避のスコアが86と高いのが特徴です。

【図1】
フランスと米国の
不確実性回避スコアの比較
出展)Hofstede Insights Group

不確実性の回避が高い文化では、変化や新しいもの、これまでとは異なるものは戸惑いを呼び起こしたり、危険性を感じさせたりします。よって、新しいものを求めるよりも、今あるものの価値を積極的に認め、保持しようとする傾向が出てきます。古い建物や景観を残そうとする行動の背後にはこうした文化特性があると考えられます。

こうした不確実性の回避の高さは消費者行動にも影響を与えます。

このことは、他国と比較するとよく分かります。例えば米国では新しい商品やサービスが次々と受け入れられていきますが、文化的にはこれは米国の不確実性回避の低さが影響しています。研究では不確実性の回避の高い文化では新しい製品や技術は受け入れにハードルがあることが指摘されており、導入を丁寧に行うなど、文化特性を考慮に入れたマーケティング活動を行う必要性が指摘されています。


WRITER

山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -ホフステード・インサイツ・ジャパン取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。

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