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パリで働く、日本人マーケターの“トレンドレポート(8)

2018.12.22 山本 真郷 / 渡辺 寧

Vol. 8
パリに新たな流行発信基地「nous」
「キュレーション」のスペクタクル

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

「Colette」の閉店
トレンドの終わりと始まり

昨年末、パリを駆け巡ったビッグニュースと言えば、ひとつに老舗コンセプトストア「Colette」(コレット)の閉店が挙げられるでしょう。1997年のオープン以来、20年に渡りパリのファッションシーンを牽引し、その優れた編集力で世界中の感度の高い方々から支持を得ていました。中でも、無名クリエイター(ストリート)とハイブランド(ラグジュアリー)の商品を分け隔てなくセレクト・融合させる独自のキュレーションは、シーンと人々のライフスタイルに多様性をもたらしました。私もずいぶんと仕事でお世話になったので、ひとつの時代の終焉を迎えたような感覚を覚えました。

まだColette閉店の喪失感が漂っていた今年1月初頭、Chanel本店などが並ぶカンボン通り48番地(元Colette所在地から徒歩圏内)に行列ができていました。Coletteのハイテク機器・時計部門の責任者であったセバスチャン・シャペル(Sébastien Chapelle)氏が元スタッフらと新たなコンセプトストア「nous」(ヌー=私たち)をオープンさせたのです。

「コンセプト」からの解放とクリエイティビティ

店名は、自分たちを取り巻くコミュニティを大切にしたいというモットーから<私たち>と名付けられています。取り扱いアイテムは、ハイテク機器、時計、書籍、ストリートウェア、スニーカーなどColetteを彷彿とさせますが、より都会的でストリートカルチャー色を強めた印象です。

「元Coletteスタッフによる新店」という話題性からメディアが殺到しましたが、相手がニューヨーク・タイムズだとしても(店名と取り扱い製品以外の)店舗の具体的な「コンセプト」については言及されていません。現在が、過去と未来に対するビジョンでつくられているとすれば、彼は型にはまることなく、その時々の自分たち(=nous)のあり様が自由でクリエイティビティで溢れたものとなるよう、「コンセプト」というものの呪縛を解いたのかもしれません。

コンセプトストアの魅力
モノ同士のコンステレーション

nousでも卓越したキュレーションは健在で、つい長居をしてしまいます。店頭に並ぶエクスクルーシブな限定モノは当然見応えがありますが、通常の市販品も魅力的に映ります。専門店で見ても目に留まらなかったり、普段気に留めない商品がコンセプトストアで栄えるのはなぜでしょうか。

オランダの社会心理学者ホフステードは文化の表出は「たまねぎ型モデル」として表現できる、と述べました。このモデルが意味することは、我々はある国の文化を「シンボル」「ヒーロー」「儀礼」という3つの慣行を通じて目にしますが、その中心には価値観があり、その価値観自体は可視化できないということです。

異文化理解の肝は異なる価値観を理解することですが、その価値観は直接観察できません。このことが異文化理解の難しさの根底にあるわけですが、それでも私たちは何とかして異なる文化を理解しようと努力します。

【図】
「たまねぎ型モデル」:
文化の表出のレベル
【図】「たまねぎ型モデル」:文化の表出のレベル

その際、最初に目にするのが、最も外側にある「シンボル」です。シンボルとは「同じ文化を共有している人々だけが理解できる特別な意味を持つ言葉、しぐさ、絵柄、あるいは物」(ホフステード他 1995)ですが、nousにおけるシンボルはモノそのものというより、キュレーションという「モノ同士のコンステレーション(布置)」にあると言えます。
我々が視覚を通じて見ているのは限定モデルや通常の市販品のモノですが、情報として受け取っているのはそれらのモノ同士のコンステレーションから浮かび上がる価値観です。

他国の価値観を理解することは容易ではないのですが、nousのような価値があると評価されている場でどのような感情が表出しているか。そうしたことを知ることが異文化理解やビジネスの大きな手掛かりとなります。パリにおいでの際は是非nousに足を運んでみてはどうでしょうか。

参考文献:「多文化世界 原書第3版 違いを学び未来への道を探る」
G・ホフステード、G・J・ホフステード、M・ミンコフ 有斐閣(1995)


WRITER

山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -ホフステード・インサイツ・ジャパン取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。

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