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パリで働く、日本人マーケターの“トレンドレポート”(9)セクハラ論争で揺れるフランス スマホ広告でセクハラ撲滅!?

2019.02.20 山本 真郷 / 渡辺 寧

Vol. 9
セクハラ論争で揺れるフランス
スマホ広告でセクハラ撲滅!?

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

世界で広がるMeToo運動
フランスでは文化論争へ

ハリウッドの映画プロデューサーによるセクハラや性的暴力を女優やモデルが告発したことをきっかけに、世界的に広がるセクハラ撲滅運動「#MeToo」。

フランスではより過激なハッシュタグ(#BalanceTonPorc=ブタを告発せよ)と共に告発の動きが広がりましたが、そうした中、様々な分野で活躍するフランス人女性100人(往年の大女優カトリーヌ・ドヌーヴ他)が連名で仏紙ル・モンドに声明文を出し、<意訳>「男性には『口説く自由』がある~口説くことと犯罪を一緒くたにしてはいけない」とした上、過熱するMeToo運動が「魔女狩り」のようでピューリタニズムの波を起こしていると主張したのです。この声明に非難が殺到し、女男平等担当副大臣までもが「危険な内容」と指摘するなど、大きな論争へと発展しました。

デリケートなテーマを除けば、声明の根底には昨今のSNSによる全体主義の風潮に対する警鐘も含まれ、現代的な問題提起と捉えることもできるでしょう。
現在もセクハラ論争は続いていますが、今回は直近で展開された「スマホを活用したセクハラ撲滅キャンペーン」をご紹介します。

インタースティシャル広告
セクハラ対策に活用

フランスでは、特に公共交通機関におけるセクハラが問題視され、マクロン政権が法整備に着手していますが、民間企業や非営利団体による「男性に向けた啓蒙活動」も活発化しています。Ogilvy Paris はセクハラ問題を扱う諸団体やメディア(GQ、Konbini、SoFoot、Libération、BFM、L’Express)と協力し、3月8日の国際女性デーに合わせてハラスメント撲滅キャンペーン「Non C’est Non」(ダメなものはダメ)を実施しました。

キャンペーンは男性を対象とし、スマホの「インタースティシャル広告」を活用してハラスメントを疑似体験させるというもので、男性が普段通りスマホでメディアコンテンツ(ニュース等)を読んでいると、突然「電話番号を教えて」といったバナーが表示され、消しても内容がエスカレートし表示され続けるという仕掛けです。最後に、「あなたはたった今、公共交通機関で全ての女性の身に起きていることを体験しました」と表示され、体験の意味づけが行われます。インタースティシャル広告の鬱陶しさを逆手に取ったソーシャルマーケティング施策となっているわけですが、男性に対して無差別に表示させる(受け手よりも送り手の事情で運用される)辺りは、日本ではあまり見ない方法と言えます。

Ogilvy Paris が手掛けた
「Non C’est Non」キャンペーン

一括りにできない西洋文化
文化を読み解く4つの軸

#MeTooに対してカトリーヌ・ドヌーヴを含むフランス人女性100人が連名で声明文を出したことは、改めてフランスとアメリカの物事の捉え方・考え方の差を世界に示す事例でした。フランスとアメリカがどのように異なるのかに関しては、様々な切り口からの考察が可能ですが、その内の一つに国民文化の差の観点があります。

1950年代にアメリカの社会学者アレックス・インケルスと心理学者ダニエル・レビンソンが過去の文化研究を文献調査し、人類には共通の課題が4つあると述べました(「権威との関係」「個人と社会との関係」、「男性らしさと女性らしさについての概念」、「葛藤の解決の仕方」)。
この4つの課題を軸として定義し、定量調査によって国民文化の差を数値化したのがオランダの社会心理学者ヘールト・ホフステードです。

ホフステードの調査を基にフランスとアメリカを比較すると、4つの軸の内3つで、フランスとアメリカは真逆の文化傾向を示しています。日本人はアメリカもフランスも「西洋」とか「欧米」という形で一括りにしてしまいますが、実際にはこの2つの国は大分異なる文化傾向を持っています。

MeToo運動に見るフランスとアメリカの文化差

フランスとアメリカの国民文化の違いの1つが「女性性・男性性」です。
ホフステードの研究では、フランスは「女性性文化」(Masculinity score 43)、アメリカは「男性性文化」(Masculinity score 62)です。男性性の強い文化は「対立志向」を取る傾向にあります。
MeToo運動でも、男性の不正な行為を告発し、糾弾するやり方は男性性の強い文化の方法と言えるのかもしれません。
一方で、女性性の強い文化は「コンセンサス志向」で、また弱者の立場や状況に注意を払います。フランスのハラスメント撲滅キャンペーンにおけるインタースティシャル広告は、「女性は交通機関の中でこんな目に合っているんです」と女性(この場合の弱者)の立場への注意喚起に焦点が置かれています。これは女性性の強い文化の特徴に見えます。

強者を糾弾するのか、弱者への理解を促すのか。この差は、セクハラという同じ事象に対しても、文化によって対応が異なる一端を示していると言えるかもしれません。


WRITER

山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -ホフステード・インサイツ・ジャパン取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。

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