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パリで働く、日本人マーケターのトレンドレポート(12)異文化コミュニケーションのツボ その国の「サービスレベルの質」を捉えよう

2019.05.28 山本 真郷 / 渡辺 寧

Vol. 12
異文化コミュニケーションのツボ
その国の「サービスレベルの質」を捉えよう

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

働く人の権利が第一のフランス
サービスの質の低さに困惑

渡仏して1年が経ちました。当初の戸惑いや苦労も今は懐かしく思えますが、今回はこの1年で特に振り回された「サービスレベルの質」にまつわるレポートです。

まず、生活の立ち上げで散々な目に合いました。某大手家具店には何度も配送をすっぽかされ、家具や照明ひとつない部屋の床に座って日が暮れるまで待ち続けたこと。トイレが水漏れした際には修理が一向に進まず、3カ月間湿っぽい臭いの中での生活を強いられるなど、日本では考えられないことが立て続きに起きました。サービス業の納期意識は、過去に暮らした欧米アジア諸国に比べて明らかに低いですが、働く人の権利が第一に守られるこの国ではサービス業に過度な期待は寄せられておらず、フランス人は「よくあることだ」と言います。

仕事とプライベートをしっかり分けるフランス人

職場では、現地スタッフが朝緩く出社し、コーヒーブレイクや昼食に長時間を割き、定時にはさっさと退社します。生活面で起きた問題もあり、はじめのうちは、彼らとの仕事でも理不尽な事態もあり得るだろうと想定していました。しかし、いざ一緒に仕事をしてみると(個人差はありますが)納期意識もアウトプットの質も高く、コーヒーブレイクや昼食での時間が仕事上の議論と人間関係を育む場になっていたことを知りました。

筆者の勤務先オフィス内の様子。仕事の時間の中で、
コミュニケーションも深めている。

日本では本音の議論や関係づくりは就業時間後の「飲み会」に委ねられることが多いですが、フランスでは就業時間内に完結します。このことは、終了時間=時間の終点に対する意識の差を示しており、フランス人の目には「日本人は会議を時間厳守で始め、仕事も正確だが、タイムマネジメントができない」と映ります。このように時間の認識は文化によって異なるため、多文化でプロジェクトを進める際は注意が必要です。

本音の議論と関係づくりも勤務時間中に行うフランス人

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士は、国民文化を数値で表す研究を行っています。この研究によるとフランスの個人主義スコアは71。これはフランスが個人主義の文化の特徴を持つことを示しています。

個人主義の文化では、個人は自分自身への責任があると考えられ、また、人間関係よりも「職務」が優先されます。フランスの職場で本音の議論や関係づくりが、飲み会ではなくて就業時間内に行われるのは、職務とプライベートがはっきり区別されて認識されているためです。
個人は自分の仕事に責任を持っていると考えられるので、組織の中で、個人は締め切りやアウトプットの質には責任をもって対応しようとします。

日本の個人主義スコアは46で、フランスに比べると集団主義の傾向が強くなります。そのため、業務とプライベートの境目が曖昧になります。文化には良い悪いはなくて、ただ違うだけなのですが、個人主義の文化から見ると、こうした日本の曖昧さは「いい加減さ」や「効率の悪さ」と見られがちです。

【図】フランスと日本の「権力格差」と「個人主義」のスコア比較
【図】フランスと日本の「権力格差」と「個人主義」のスコア比較
出展)Hofstede Insights Group

権力格差の高いフランス
お客さまは神様ではない?!

個人主義文化では個人は自分の仕事に責任を持ちますが、同時にフランスは様々なサービスの質が低いと多くの日本人に言われます。
この背景にはいくつかの文化的説明がなされますが、そのうちのひとつが権力格差の高さです。フランスは権力格差のスコアが68で、権力格差の高い文化になります(日本は54)。

権力格差の高い文化ではヒエラルキーが絶対で、権威への尊敬が義務になります。これは、属しているヒエラルキーの権威の指示には従うが、それ以外の人の指示には従わないということでもあります。フランスの企業と仕事をしていると、相手組織のヒエラルキーの上から指示を落としてもらわないと物事が動かないことがありますが、これはフランスの権力格差の高さが背景にあります。

日本では「お客さまは神様です」と言って顧客の要望にきちんと対応することがありますが、従業員にとって、そもそも顧客はヒエラルキーの中の権威者ではないので、権力格差の高い文化ではお客さまである、こちらの指示に従ってくれないということが起こりえます。


WRITER

山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -ホフステード・インサイツ・ジャパン取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。

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