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パリで働く、日本人マーケターのトレンドレポート(13)スポーツの根源的価値を問う 「五輪メダル」のイノベーション

2019.07.12 山本 真郷 / 渡辺 寧

スポーツの根源的価値を問う 「五輪メダル」のイノベーション

Vol.13
スポーツの根源的価値を問う
「五輪メダル」のイノベーション

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

支えてくれた人と分け合う
分割できる五輪メダル

東京五輪を控えて日本が盛り上がる中、早くもフランスでは2024年の「パリ五輪」開催に向けて、動きがあります。そこで、今回は中でも特に気になった動向を紹介します。

まず、「その手があったか!」と納得させられたのが「五輪メダルのデザイン」です。著名フランス人デザイナー、フィリップ・スタルク(Philippe Starck) 氏により提案されたのは「シェアできるメダル」というコンセプト。一つのメダルを4つに分割し、残りの3つを競技生活を支えてくれた人たち(コーチ、家族、友人など)にも渡して勝利を分かち合うことができるというものです。

フィリップ・スタルク氏はメディアに対し「たった一人では勝つことはできないということをメダルで表現したかった」とさらりと説明していますが、スポーツの本質に迫るその発想には、心を打つものがあります。

メダルの分割は、メダルの数が増えることを意味しますが、株のように一つひとつの価値が下がることにはなりません。むしろ、メダルのユーザーが「競技者」(本人)から「競技者+α」(複数人)へと拡大することで、競技関係者(コミュニティ)の関与度・満足度が指数関数的に高まり、パリ五輪のブランディングになるでしょう。

支えてくれた人と分け合う分割できる五輪メダル
フィリップ・スタルク 氏考案のパリ五輪のメダル デザイン

年齢に関係なく楽しめる
未来と相性が良い伝統競技

追加種目検討の動きも活発化しています。そのひとつが「ペタンク」(pétanque)という100年以上の歴史を持つフランス発祥の球技です。フランスの国民的スポーツと言えば、サッカー、テニス、サイクリングなどが広く知られたところですが、ペタンクも人気があり、公園に行けばかなりの確率でプレイしている人を見かけるほど親しまれています。
ルールは簡単で、コート上に描いたサークルを基点として目標球(ビュット)に金属製のボールを投げ合い、相手のボールより近づけることで得点を競います(出典:wikipedia)。

高度な技術と戦略が求められますが、体力がなくても手軽に楽しめるのが人気の理由です。

運動量の少ない競技はユーザーが高齢化しがちですが、ペタンクは老若男女が混ざり合ってプレイされているのが印象的です。日本では若者と高齢者が一緒にスポーツを楽しむ光景はなかなか見られませんが、人生100年時代を見据えたスポーツの在り方を考える上でペタンクにそのヒントが隠されているかもしれません。

年齢に関係なく楽しめる未来と相性が良い伝統競技
パリ市内の公園でペタンクを楽しむ若者たち。

東京との違いにも注目
フランスの文化の特徴が五輪にも

フランス文化の特徴のひとつは、個人主義であるということです。オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード氏は各国の文化を数値化する研究を行ってきましたが、それによると、フランスの個人主義(Individualism)スコアは71で、これはフランスが個人主義の文化に属していることを示しています。日本のスコアは46でやや集団主義に寄っていますので、日本人から見るとフランス人はだいぶ個人主義的な人たちに見えると思います。

【図】フランスと日本の「個人主義」のスコア比較
【図】フランスと日本の「個人主義」のスコア比較
出展)Hofstede Insights Group

個人主義の文化では、個人の努力による成果は個人に属するものです。集団主義では「皆で出した成果」というように集団を表彰することがありますが、個人主義の文化ではそのような表彰の仕方は実際に努力した個人のやる気を損ねます。選手がメダルを獲得する過程で貢献した周囲の人々に分割したメダルを渡そうという考えは、個人主義の文化に合った取り組みのように思います。

フランス文化のもうひとつの特徴は女性性が強いということです。ホフステードモデルでのフランスの女性性・男性性のスコアは43で、これはフランスが女性性文化の特徴を持っていることを示しています。女性性の強い文化では社会への配慮や包摂が大事にされます。老人や子供、障害者などへのケアが手厚いのも特徴です。

ペタンクは年代や性別を問わずに参加できる競技で、男性性の強い文化で見られるような大きく派手な競技(アメフトや相撲など)ではありません。こうした競技選択にもフランス文化の特徴がみられます。

2024年のパリ五輪では、いくつものフランス文化らしさが見られそうです。そんな文化の視点から2020年東京五輪と比べてみるのも面白いかもしれません。


WRITER

山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -ホフステード・インサイツ・ジャパン取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。

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