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Vol.15
東欧自動車ブランドの広告宣伝
―マイナスイメージを逆手に取る
ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。
欧州ではトヨタよりも売れている
チェコの自動車ブランド
Skoda(シュコダ)というチェコの自動車ブランドをご存知でしょうか。日本では馴染みが薄いですが、独VWグループ傘下で大衆車セグメントを担い、欧州ではコスパの良さで支持されています。欧州自動車工業会によれば、欧州市場(EU+EFTA)における2018年上半期の新車販売台数は同社が10位(387千台、前年同期比9.0%増)。日本勢トップのトヨタが11位(376千台、同6.4%増)ですので、少なくとも台数面ではSkodaが健闘していることが分かります。
同社は91年にVW傘下となって以降、品質・性能を格段に高め、販売台数も伸ばしていますが、西欧ではまだまだ旧東欧企業への偏見が根強く残るため、それを払拭する宣伝活動を積極的に行っています。
さりげなく偏見を払拭
話題になったティザー動画
今回、ご紹介するのは最近Skodaフランスが公開した新型SUV(2016年に投入された「Kodiaq」の新型モデル)のティザー動画のクリエイティブについてです。
動画のタイトルは「Ugly In The 90’s」(カッコ悪かった90年代)。1分尺の動画の前半50秒では、90年代のフランスの情景が映し出されます。当時、流行したダンスミュージックをBGMに、サイケデリックな服装にマレットヘアやカート・コバーン風の髪型をしたニキビ面の若者たちの様子が映し出された後、「90年代にカッコ悪かったのは私たち(Skoda)だけではなかった」とテロップが流れます。テロップは「新作」という文言に切り替わり、黒ホリに新型Kodiaqのボディサイド、ヘッドライト、エンブレムなどの部位が先進的かつ高品位に映し出されます。最後に「現在のSkodaを発見しよう」というテロップが流れ、車体全貌が一瞬現れる構成です。
90年代の描写は確かに時代を感じさせますが、懐かしい青春時代をも思い起こさせます。つまり、好意的なイメージも内包した一見カッコ悪い「90年代フランス」をSkodaに投影することで、無理なく同社のイメージを質的に良化させる狙いがうかがえます。
製作元の仏Rosaparkは「Skodaが目指すブランド・ポジショニングはゲームチェンジャー。過去のマイナスイメージは進化を示すのに好都合」と説明しており、実際に過去を認める潔さと、新型Kodiaqの先進性・品位が相まって、ティザーは好意的に受け止められています。
米国とは異なる文化背景
今と昔を語るフランスの表現
広告を始めとするフランス国内の表現を見ていると、過去からの時間の流れの中で「今」を位置付けて語ることが多いと感じることがあります。全く新しいことを始めるよりは、過去を踏まえた上で漸次的な進歩を良しとする保守主義の考え方が根底にあるように感じます。
オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステードは国民文化を数値化する研究を行っています。ホフステードのモデルでは、6つの軸で国民文化を表現します。
そのうちの2つの軸、「短期志向/長期志向(LTO)」と「人生の楽しみ方(IVR)」で、フランス文化を見ると、フランスは長期志向(LTO=63)でやや悲観主義的(IVR=48)な文化であることが分かります。一方で、同じ軸で米国の文化を見ると、米国は短期志向(LTO=26)で楽観主義的(IVR=68)であることが分かります。
【図】米仏の短期/長期志向(LTO)、人生の楽しみ方(IVR)の比較
このため、例えば米国で車のコマーシャル動画をつくるとしたら、車を所有することでいかに「今」「楽しいか」という訴求を行ったほうが、文化的には受け入れられやすいものとなります。
Skodaのティザー動画は「過去はカッコ悪い所もあった。そんな中、今の新しいブランドがある」と、より長期で酸いも甘いも含めた表現となっています。これは、フランスの長期志向・やや悲観主義の文化傾向を考えると、自然なメッセージ作成のアプローチに見えます。
ブランドは、そのブランドが示す価値観の集合体でもあるので、上市しようとする国の基本的な価値観を踏まえた表現を考えることが大切です。
山本 真郷 / 渡辺 寧
- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -代表取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程在籍。