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パリで働く、日本人マーケターのトレンドレポート(16)ナイジェリアに「チェキ」上陸 ローカルインサイトに基づく広告が始動

2019.10.24 山本 真郷 / 渡辺 寧

ナイジェリアに「チェキ」上陸 ローカルインサイトに基づく広告が始動

Vol.16
ナイジェリアに「チェキ」上陸
ローカルインサイトに基づく広告が始動

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

アフリカ大陸の人々が知らない
「インスタント写真」

最後の成長市場と言われる、アフリカ。富士フイルムではその大半地域の事業展開(写真事業)をフランス経由で取り組んでおり、目下の課題は「チェキ」(instax =インスタント写真)ビジネスの立ち上げです。

アフリカで「チェキ」に本格着手したのは2017年のこと。現在、北・西アフリカの販売網とコミュニケーションの整備を進めています。アフリカ市場の特殊性は「消費者がインスタント写真を体験したことがない上、その存在も知らない」という点にあります。良くも悪くも市場にインスタント写真の痕跡がないことに加え、「写真」そのものの系譜も異なるため(デジカメを通り越してスマホとSNSが普及)、ゼロベースでコミュニケーションを設計しなければなりません。

今回は特に重点市場と位置づけている「ナイジェリア」(大陸最大の人口と経済規模を誇る)で、初めての年末商戦に展開した「広告クリエイティブ」をご紹介します。

背景に使われているのは、ナイジェリアの民族衣装の柄。
背景に使われているのは、ナイジェリアの民族衣装の柄

都市化による家族の分断
溝を「チェキ」で埋める仕掛け

市場にインスタント写真の痕跡がないため、インスタント写真文化の「基点」となるようなシナリオを描くことをクリエイティブの上位テーマにしました。
ターゲットについては、同国に250以上の民族が暮らし、それぞれが異なる価値観や文化を持つため、大まかに設定。アフリカ開発銀行によれば国民の8割が1日2ドル以下で生活するのに対し、「チェキ」の店頭価格は日本円にして1万円は下らないので、導入段階のター
ゲットは中間層以上とし、対象地域を販売網の整備が進むラゴスに絞りました。

まっさらな市場は好ましいブランドを形成するチャンスと言えますが、製品理解を醸成し、購入まで導くには現地のインサイトに基づいた強い動機付けが必要です。そこで、ローカルエージェンシーとクリエイティブのアプローチについて膝詰めで議論を重ねました。
仕上がったコンセプトフレーズは「Leave you behind=あなたを(チェキで)置いていこう」です。

キャンペーンは「Leave youbehind=あなたを(チェキで)置いていこう」のコンセプトフレーズに基づいて展開された。
キャンペーンは「Leave you behind=あなたを(チェキで)置いていこう」のコンセプトフレーズに基づいて展開された。

背景

  • ラゴス在住者は大半が地方出身。その多くは就労機会・富を求めラゴスに移り、家族と離れて暮らす。
  • ナイジェリアでは「家族の絆」が極めて強いが、ラゴス在住者の多くは家族と会えないジレンマを抱えている。

企画コンセプト

  • 残してきた家族や同じ民族集団との絆を深める仕掛けとして、年末年始の帰省時に「本人の代わりにチェキを置いてくる」ことを促してはどうか。
  • フィルムの現像剤の入った「白い余白」は「メッセージを書き込む場所」(手紙)として機能価値と情緒価値の両面で訴求し、スマホ写真と異なるタンジブルな魅力を示す。そして、いずれ「チェキ」が手紙のようにラゴスから全土へ拡がっていく、というシナリオ。

個人主義文化とは異なる
集団主義文化の消費者行動

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士は、国の文化を数値で表現する研究を行っています。このスコアを見ると、ナイジェリア文化の特徴のひとつは「集団主義」であることが分かります。
下図はナイジェリアと米国の集団主義・個人主義(Individualism)のスコア比較です。スコアが高いと個人主義、低いと集団主義を表します。ナイジェリアのスコアは30で、これはナイジェリアが集団主義文化の特徴を持つことを示しています。

【図】ナイジェリア・米国の集団主義・個人主義スコア
【図】ナイジェリア・米国の集団主義・個人主義スコア
出展)Hofstede Insights Group

人は成長するにしたがって、個人主義の文化では「自分は独立した個人だ」と思うようになりますが、集団主義の文化では「自分は所属する集団の一員だ」と思うようになります。そのため、消費行動にも個人主義文化と集団主義文化で差が表れます。

例えば、ホフステードらは2005年に調査会社が行った、15~17歳の少女に対する美容やボディ・イメージについての調査を紹介しています。この調査の中で「自分の美の理想に影響を及ぼしている人」を聞いたところ、個人主義文化の国では「男の子」という回答が最も多かったのに対して、集団主義文化の国では「内集団の一員である女友達」という回答が最も多かったと報告しています。

上記のように消費者の考え方が文化によって異なるため、同じ商品であってもプロモーションの仕方や訴求ポイントは文化によって分ける必要がでてきます。
集団主義文化においては、今回の「チェキ」のように、家族・友人・民族といった「内集団とのつながり」を念頭に置いてプロモーションを考えると一定の訴求力が期待できるでしょう。


WRITER

山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -ホフステード・インサイツ・ジャパン取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。

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