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パリで働く、日本人マーケターのトレンドレポート(18)フランス社会を揺さぶる大規模デモ ー 溢れる「色」と「モチーフ」

2020.01.13 山本 真郷 / 渡辺 寧

フランス社会を揺さぶる大規模デモ ー 溢れる「色」と「モチーフ」

Vol.18
フランス社会を揺さぶる大規模デモ
ー 溢れる「色」と「モチーフ」

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

なぜ、フランス人は
「黄色いベスト」を身にまとうのか?

フランスではマクロン政権の改革に抗議する大規模デモ「黄色いベスト運動」(gilets jaunes)が続いています(1月末時点)。フランス政府は事態を沈静化するため、燃料税引き上げ中止や最低賃金引き上げなどの家計支援策を発表する
も、根底には鬱積した「不公平な税制と政治」に対する怒りや将来不安があると見られ、未だ収束の兆しが見えません。

今月は日本であまり報じられていない「黄色いベスト」のギミックとデモから垣間見えるフランス文化について触れたいと思います。

日本においてデモは過激集団による行為のように扱われますが、フランスでは市民の声を政府に届ける正当な手段と見なされています。このため、デモ自体は驚くことはないのですが、「黄色いベスト」が従来のデモと一線を画すのは、特定の政治思想による団体ではなく、生活に困窮する「庶民」がソーシャルメディア上で自然発生的に立ち上がり結束している点です。深い政治不信を前提とした指導者不在の水平的な編成(ソーシャルメディア上の緩やかなつながり)は内部から名乗り出る指導者さえも拒絶し、仏政府は当初、交渉相手の特定に苦慮したとも言われています。

「黄色いベスト」がデモ隊のシンボルになっていますが、なぜ「黄色いベスト」を着用するのか―フランスでは安全対策として自動車内での安全ベスト(=黄色いベスト)の携行が義務付けられています。

本来は自動車が事故を起こし、車外に出る時に危険から身を守るために着用するものですが、市民は燃料増税等の不満や将来への不安を「危険」に見立て、皮肉を込めて「黄色いベスト」を着用しているのです。

自動車内に常備された「黄色いベスト」を用いることで、賛同さえ得られれば瞬時に運動参加を促せる(運動参加の敷居を下げている)ことも含め、本当に自然発生なのかと疑いたくなるほどよく練られた施策に見えなくもありません。

いまだ沈静せず
デモはどこに向かうのか?

デモが一部暴徒化する中、反暴力と対話を訴える「赤いスカーフ」運動や民主主義を維持するコストがいかに日頃の支出(例:スマホ代、オンライン動画視聴料など)に比べ小さいかを説く「反黄色いベスト」団体が立ち上がり、さらには警察の労働組合が昨今の労働条件(デモ対応等)に抗議し、相応の特別手当が得られない場合は「青いベスト」運動を始めると政府に迫るなど、異なる立場の主張も飛び交っています。直近では「黄色いベスト」の一部に対話での解決を望む動きもあり(5月の欧州議会選挙に候補者を擁立すると発表したり、「黄色い風船」を手にし、平和なデモを取り戻そうと訴える女性集団が現れたりなど)、新たな局面へと向かう可能性が出てきています。

各団体・運動に「色」や「モチーフ」が使用されている点も興味深く見ています。ソーシャルメディア上で自然発生的に生まれたムーブメントは実体性が見え難いので、社会心理学的な見方をすれば、共通の「色」や「モチーフ」が集団の帰属意識を醸成し、文化を注入するなど、その実体性を内外で認知させる上で重要な役割を果たしていると言えるでしょう。

明確に反対を示す姿勢に
個人主義文化の傾向が見える

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステードは、国の文化を数値化する研究を行ってきました。現在は6つの次元で各国の文化の違いを表現しています。この研究に基づくと、フランスは個人主義文化の特徴を持っていることが分かります。

下の図は、フランスと日本の個人主義・集団主義のスコアの比較です。数値は0~100の間で動き、50を超えて100に近づくと個人主義、50を下回り0に近づくと集団主義の文化になります。数値を見ると、フランスは明確に個人主義文化、日本は、やや集団主義寄りではあるが、集団主義と個人主義の中間の文化傾向を持っていることが分かります。

【図】フランスと日本の個人主義・集団主義スコア比較
【図】フランスと日本の個人主義・集団主義スコア比較
出展)Hofstede Insights Group

個人主義文化のひとつの大きな特徴は、意見を明確に言うことです。日本に来た欧米人が良く「日本人のYes(はい)は、「はい、あなたの話は聞きました」という意味で、必ずしも賛同しているわけではないよね」と言います。集団主義文化では人の意見に明確に反対することは場合によっては「無礼である」と捉えられますが、個人主義文化では明確に反対しないことが「無礼である」と捉えられる傾向にあります。

フランスのデモは、権威社会の中で個人の反対をはっきりと主張する方法のひとつです。また、そのデモも「黄色いベスト」「赤いスカーフ」「青いベスト」、と一枚岩にならない所も、違いは違いとして明確に主張する個人主義文化の傾向が見え隠れするように感じます。


WRITER

山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -ホフステード・インサイツ・ジャパン取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。

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