Hofstede Insights Japan

お問い合わせ

BLOGブログ

パリで働く、日本人マーケターのトレンドレポート(22)風刺の効いた“フェムバタイジング” ― ドイツで話題、「タンポンの本」

2020.05.20 山本 真郷 / 渡辺 寧

風刺の効いた“フェムバタイジング”―ドイツで話題、「タンポンの本」

The Tampon Bookの表紙と付録のタンポン副題は「差別的課税に反対する本」

Vol.22
風刺の効いた“フェムバタイジング”
ー ドイツで話題、「タンポンの本」

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

書籍に隠されたタンポン
その狙いはいかに?

隣国ドイツで「The Tampon Book」(タンポンの本)という書籍が話題になっています。本書には聖書時代から現代に至るまでの生理にまつわる話が46ページで収められ、付録として「オーガニックタンポン」が15個ついてきます。販売元はオーガニックタンポンをサブスクリプションモデルで販売する女性起業家によるスタートアップThe Female Company。同社によれば、初回ロットは販売開始2日で完売し、現在も注文が殺到しているそうです。

ドイツで何が話題になっているのでしょうか?
ドイツでは生理用品の付加価値税(日本の消費税に相当)が19%(標準税率)なのに対し、書籍の税率は7%(軽減税率)で、タンポンを書籍の付属品として販売することで税率を合法的に19%から7%へと軽減することができているのです。

世界三大珍味よりも高い税率
矛盾に切り込むドイツ人女性たち

もともと生理用品は多くの国で課税対象でしたが、数年前から消費税撤廃を求める動きが世界的に広がっています。すでにオーストラリア、カナダ、アメリカの一部の州などでは完全撤廃され、欧州では2016年に欧州連合(EU)から消費税撤廃を認める方針が出されています。とは言え、EU加盟国28カ国の内、最も税率が高いハンガリー(27%)を筆頭に10カ国以上でいまだ20%以上が課されており、ドイツにおいても19%と比較的に高く、先進7カ国(G7)でトップ。ちなみに世界ではじめて消費税が導入されたフランスは、欧州連合の動きに先立ち2015年に国民議会から軽減税率の適用(20%→5.5%)が承認されています。

The Female Companyの主張は、ドイツで生活必需品に適用される軽減税率の7%が世界三大珍味(キャビア・フォアグラ・トリュフ)などの贅沢品に対応しているのに対し、女性の生活に不可欠な生理用品が標準税率19%というのは差別的課税にあたる、というものです。そこでThe Tampon Bookは軽減税率の対象である書籍と重ね合わせることで消費税を抑えつつ、「問題の認知拡大」を狙ったフェムバタイジングを企画したのです。

同社の共同創業者であるアンソフィー・クラウス(Ann-Sophie Claus)氏に直近の進展状況を聞いたところ、並行して署名サイト「change.org」で立ち上げた軽減税率適用を求める請願書はThe Tampon Book効果もあり、17万を超える署名が集まり(2019年6月時点)、ついにはドイツ連邦議会で議論の場が設けられることになったとのことでした。

「法律は男性によってつくられた」と語ったオバマ米前大統領の言葉を引用

男性性の高い文化のドイツ
自国の男性性に対する挑戦か?

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士は、国民文化を数値化する研究を行ってきました。この研究によると、ドイツの女性性・男性性(MAS)のスコアは66で、これはドイツが男性性の傾向を持つ文化であることを示しています。

男性性の文化では、性に関する露骨な議論はタブーとされます。そのため、税率の引き下げを議論の土台に載せ、問題の認知拡大を狙う“フェムバタイジング”は文化的には物議を醸しだす可能性があります。

一方、隣国フランスの女性性・男性スコアは43で、これはフランスが女性性の傾向を持つ文化であることを示しています。女性性の文化では、性に関する議論はオープンな傾向があります。欧州の中でドイツよりも先にフランスの方がタンポンに対する軽減税率を適用した背景のひとつとしては、こうした独仏の女性性・男性性の文化差があるのかもしれません。

ドイツは集団主義・個人主義(IDV)のスコアが67で個人主義文化の傾向を持つ国でもあります。個人主義の文化においては個人が明確な主張を行うことは自然なことです。The Tampon Bookによるフェムバタイジングは、性に関するオープンな議論を避けようとする自国の男性性文化の傾向に対する個人主義的な挑戦という見方もできるでしょう。

【図】ドイツとフランスの女性性・男性性(MAS)のスコア比較
【図】ドイツとフランスの女性性・男性性(MAS)のスコア比較
出展)Hofstede Insights Group


WRITER

山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -ホフステード・インサイツ・ジャパン取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。

MAIL MAGAZINE

文化に関する役立つ情報をメールマガジンで配信しています。お気軽にお申し込みください。

登録はこちらから