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パリで働く、日本人マーケターのトレンドレポート(23)フランス人はこうして大人になる―贈り物から垣間見える国の文化と親心

2020.06.28 山本 真郷 / 渡辺 寧

フランス人はこうして大人になる―贈り物から垣間見える国の文化と親心

個人主義であり、同時に権力格差も高いのがフランス文化の特徴。

Vol.23
フランス人はこうして大人になる
―贈り物から垣間見える国の文化と親心

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

自宅を自由に使える権利
誕生日に粋な贈り物

先日、フランス人の同僚フランクが「息子が18歳を迎えたんだ」と嬉しそうに話していました。フランスでは18歳の誕生日を迎えると成人したことになり、選挙権が与えられ、飲酒が解禁となります。特別な式典などはありませんが、節目として家族で盛大に祝うそうです。今回はフランクが父親として息子の誕生日に手渡した「贈り物」のお話です。

息子さんが誕生日を迎えた夜、飾り付けられたダイニングテーブルに夫婦で仕込んだ料理ととっておきのワインを並べ、さらにアクティブな息子さんのためにスポーツ用のサングラスとサプライズで“ギフトカード”を贈ったそうです。

そのギフトカードとは、バースデイカードに「自宅を1週間自由に使える権利」と手書きで書かれたもの。息子さんが希望するタイミングで親が家を1週間空け、その間に友達を招待するなどして家を自由に使える、という趣旨だそうです。なるほど、素敵な贈り物だと思いました。息子に自由と責任を突き付けることで「大人」を体験させる、というわけです。

しつけの厳しいフランス家庭
だからこその成人祝いの心意気

フランスでは子どもたちが将来、困らないように社会のルールや好ましい習慣を厳しくしつけられます。また、共働き世帯が多い上、家庭では夫婦関係が優先されるため、親(大人)は子どもに振り回されることなく自分たちのペースで生活します。

親は子どもの自立を促すため、成長するにつれルールを緩めていきますが、それでも子どもたちは成人になるまで常に親の敷いたしつけの枠組の中に置かれ、子どもたちはその範囲で自由を見出すのです。「自宅を自由に使える権利」は一見、些細な贈り物に感じられますが、こうしたしつけの末に「君はもう正しい判断ができる(=信頼)」と伝えているのに等しく、よく考えられた贈り物だと思いました。

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士は、国民文化を数値化する研究を行ってきました。このホフステードモデルでフランスの文化を見ると、フランスは権力格差が高く(PDIスコア=68)、同時に個人主義(IDVスコア=71)の傾向を持つ文化であることがわかります。米・英・独といった他の欧米先進国と比べると、「個人主義」は共通しているのですが、フランスだけは「権力格差が高い」という点が特徴的です。

権力格差が高い文化では、親は子供に従順さを教え、親や年長の親族に対して敬意を払うことは、一生にわたって続く基本的美徳と捉えられます。フランスでの親のしつけは、こうした権力格差の高い文化背景の発現と考えることができます。

【図】米英独仏の権力格差×個人主義スコアの比較
【図】米英独仏の権力格差×個人主義スコアの比較
出展)Hofstede Insights Group

個人主義者となって初めて一人前
権力格差が高くても個人を尊重

フランス文化が興味深いのは、権力格差が高いのに、個人主義文化であるということです。権力格差の高い文化圏の多くでは、個人主義ではなくて集団主義になります。そこでは家族などの集団を中心とした社会が成立し、その集団の中でヒエラルキーがつくられます。そして集団主義文化では「私の意見」よりも「私たちの意見」が重要と考えられます。

フランスは権力格差が高いので、階層社会になるのですが、同時に個人主義文化なので、個人の意見や考えを持つことが重要と考えられます。

子供の教育において、幼少期からはしっかりとしたしつけをしつつ、18歳になったら自由と責任を与え、個人として扱うという様は、権力格差の高い中でも個人主義者であることを重視するフランス文化の現れと見ることができます。「自宅を1週間自由に使っていい」という18歳の誕生日プレゼントは、こうしたフランス文化的な子育て法の具体例と言えるでしょう。


WRITER

山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -ホフステード・インサイツ・ジャパン取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。

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