BLOGブログ
Vol.25
フランス最大の発明はバカンス?
― 日本人が休まない理由
ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。
ドーバー海峡を横断
国民的スターにもバカンスは必要
8月初頭、フランス人発明家フランキー・ザパタ氏が自ら開発した起立型飛行装置「フライボードエア」でドーバー海峡横断に成功したニュースを見て、そのアイアンマンさながらの飛行姿に驚かされました。革新的な発明はいつの時代も人をわくわくさせるものです。
一躍有名になったザパタ氏。ドーバー海峡横断を成功させた後の取材で「疲れた、バカンスが必要だ」と語ったのが、いかにもフランス人らしいコメントに感じられました。なぜならば、フランス最大の年中行事が夏のバカンス(長期休暇)だからです。年5週間の有給休暇に法定労働時間(週35時間)を超えた労働の振り替えが加わり、夏に1カ月弱、冬に2週間ほどを休むのが一般的です。
土日・祝日を加えると、1年の4割以上を休んでいることになります。この原稿を執筆している8月現在は、まさに夏のバカンスシーズン真っ只中で、パリなどの大都市は観光地を除きほぼ休眠状態です。なぜ、これだけ長期に休んでも、経済や社会活動が維持できるのでしょうか。
日本よりも4割高い労働生産性
フランス人から学ぶ人生観
日本では「休む」と「怠ける」を同義に捉える向きがあり、フランス人は仕事は、ほどほどに休んでばかりいるようなイメージが持たれますが、労働生産性の国際比較ではフランスなどの欧米先進国が日本を大きく上回ります。日本生産性本部がOECDデータベースをもとにまとめた「時間当たり労働生産性」(2017年)によると、日本が47.5ドル、対しフランスは67.8ドル。フランス人が同じ労働時間で日本人よりも4割も高い成果を上げているとすれば、長く休んでも経済が回るのは当然と言えば当然です。
フランス人にとって、仕事を効率良くこなし、休息をしっかりと取り、家族との時間を大切にすることは人生を豊かに送る上でごく自然な感覚です。そして、休息とは心を「空・無の状態」(バカンスの語源)に戻すことで、そのためには連続休暇が不可欠と考えられています。
このためフランス人から見ると、休みを取らずに残業ばかりしている日本人は、能力は高いものの働き方は非効率で私生活を大切にしていないように映ります。
有給取得は少ないのに
祝日で多く休む日本人
夏の1ヵ月間、有休をとってまるまるバカンスで休む習慣は日本にはありませんが、代わりに日本は比較的祝祭日が多い国でもあります。下表は、Expediaの2017年の有給休暇国際比較調査と人事コンサルティング会社マーサーが2014年に公表した年間祝祭日数世界ランキングを合わせて分析したものになります。
これを見ると日本は、有給消化は年間10日と少ないものの、祝祭日は15日と有給消化数よりも多く、年間合計25日の休日数です。これはシンガポールと同等で、米国やメキシコよりも休んでいる休日数になります。
【表】有給と祝祭日の国際比較
休みの取り方に見える文化の違い
集団主義寄りの日本の特徴
日本は有給消化日よりも祝祭日の方が多い「祝日で休む」パターンです。同様のパターンの国にはインドや韓国があります。
国民文化を数値化したホフステードの6次元モデルの各国スコアとの相関を取ると、祝祭日数は権力格差スコアと弱い正の相関(r=0.29)があり、個人主義スコアと負の相関(r=-0.41)があります。権力格差が低く個人主義の文化の国は、個々人で有休をとって休む傾向があるのに対し、権力格差が高く集団主義の国は、国が決めた公休に皆で一斉に休む傾向にあります。
日本は権力格差スコア54で、個人主義スコア46です。日本文化は、若干権力格差が高く、若干集団主義寄りのスコアです。そのため、文化的には「国が決めた公休に皆で一斉に休む」スタイルの方が、馴染みが良いのかもしれません。
とはいえ、個人主義的な価値観も広く浸透している昨今、「個人が自由に決めて長期間休む」ことがタブー視される日本の空気もそろそろ変わっても良いのではなかろうか?と思います。
山本 真郷 / 渡辺 寧
- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -代表取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程在籍。