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パリで働く、日本人マーケターのトレンドレポート(26)“未来”という概念を押さえる ― アフリカで成功する価格交渉とは?

2020.10.21 山本 真郷 / 渡辺 寧

“未来”という概念を押さえる― アフリカで成功する価格交渉とは?

Vol.26
“未来”という概念を押さえる
― アフリカで成功する価格交渉とは?

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

力を増す「アフリカ系商人」
西アフリカ市場で頭角を現す

アフリカ大陸では、さまざまな商人がビジネスを営んでいます。地域やビジネス分野によってプレイヤーが異なりますが、特にビジネスリスクが高く攻略が難しい「西アフリカ」(ECOWAS諸国)では「レバノン商人」のプレゼンスが高く、英「エコノミスト」誌の推計によれば、その規模は同地域だけでも25万人で、非アフリカ系として最大です。

レバノン系コミュニティは19世紀の植民地時代から現地に根付き、そのネットワークを活かして諸外国企業との間で仲介業・代理店業を営んできました。現地感覚を持ち、難しい商物流(輸入から商品の流通)に対応する彼らは長年、国外企業の心強い水先案内役を担っていました。

ところが、昔ながらの口銭ビジネスから脱却できない先が多く、踏み込んだマーケティングが必要な拡販フェーズに進むと、コンフリクトが生じるケースも出てきます。

当社ではこうした問題意識から西アフリカにおける流通政策を見直し、昨今頭角を現している地場の「アフリカ系商人」との関係強化を図ってきました。彼らはかつて、レバノン商人が輸入した商品を小売店に卸す仲買業を生業としていましたが、最近では経済力を身につけて、輸入卸に一気通貫で対応できようになっているからです。ビジネスに対して貪欲で、流通階層を減らせる彼らと組むことで、市場開拓を加速させる狙いです。

巧妙なマーケティングは逆効果
古典的セールスプロモーションが有効

輸入卸に従事する「アフリカ系商人」の企業は規模が小さい場合が多く、商談には代表者が出てくるので、条件さえ整えば“即断即決”でビジネスが動きます。
とは言え、市場を熟知している彼らとの交渉は容易ではありません。指値で迫ってきたり、厳しい値下げ要請を突き付けてきます。値下げの回避、すなわち販売単価を変えない手立てとして、値引くことを想定し予め基準価格を高めに提示(アンカリング)する手がありますが、市場価格が他市場に比べて低水準なため、下手をすると信頼を失いかねません。金銭的インセンティブ(累進リベート、拡販リベー
ト)や安定供給の確約などの「未来の報酬」も考えられますが、こうしたスキームも西アフリカではなかなか通用しません。

それでは何が響くのか?ひとつ目は、日本でも値引きの代わりに活用されているノベルティやプレミアムなどの販促物です。販促物の価値をどう示すかは腕の見せ所ですが非常に有効です。2つ目は、「正規ディーラー認定」といった心理的インセンティブです。当社では有力なディーラーに対して敬意と期待を込めて認定証を厳かな額に入れて贈るなどしていますが、これも喜ばれます。

CIの入った小売店スタッフ向けシャツ
ナイジェリアでの販促物例。写真はCIの入った小売店スタッフ向けシャツ。

西アフリカの商習慣を
文化の視点で紐解く

グローバルビジネスをする中では、各地の商習慣の違いに気付くことがあります。オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステードは国民文化を6つの次元で数値化する研究を行ってきました。この6次元モデルをもとにすると、各地の商習慣の背景が読み解け、どのように対応するのが良いか指針が得られることがあります。

例えば、西アフリカの代表国のひとつであるナイジェリアのスコアを見ると、権力格差が高く(PDI=80)、男性性の特徴を持つ(MAS=60)文化であることがわかります。権力格差が高い男性性寄りの文化では「ステータスシンボル」が有効に機能する傾向にあります。社会はピラミッドのような階層でできており、上の階層に登ることには価値があります。

ナイジェリアでCIの入ったシャツなどの販促物が好まれ、認定証が喜ばれる背景には、それがグローバルな大きな会社から認められているという「ステータスシンボル」として機能するから、と解釈することができます。

一方で日本は、男性性が高い(MAS=95)のですが、それほど権力格差が高いわけではない(PDI=54)ので、そこまでステータスシンボルが機能する文化ではありません。また、日本は長期志向の文化(LTO=88)で不確実性の回避が高い(UAI=92)ので、日本人としてはリベートや安定供給の約束は「当然価値があるだろう」と思いがちです。しかし、ナイジェリアは短期志向(LTO=13)で、そこまで不確実性の回避が高いわけではない(UAI=55)ので、日本人ほどにはリベートや安定供給のような「未来の報酬」には価値を感じないだろうと推測することができます。

我々は日本文化の価値観を基に「こういうことには価値がある」という前提でグローバルなビジネスを行いがちです。それはそれで悪いことではないのですが、各国にはそれぞれ異なるた文化があり、何に価値を置くかは文化によって異なります。こうした文化の差を理解することはスムーズなビジネスを行う上で役に立ちます。

【図】ナイジェリアと日本の「権力格差」「男性性」「長期志向」「不確実性の回避」スコア
【図】ナイジェリアと日本の「権力格差」「男性性」「長期志向」「不確実性の回避」スコア
出典:Hofstede Insights Group


山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -代表取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程在籍。

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