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パリで働く、日本人マーケターのトレンドレポート(28)「3615」はビジネスチャンス!? ― フランス人の心をつかむ数字

2020.12.21 山本 真郷 / 渡辺 寧

Minitel本体。

Minitel本体。

Vol.28
「3615」はビジネスチャンス!?
― フランス人の心をつかむ数字

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

ネットワーク文化を先取りした
80 ~ 90年代のフランス

ある数字を見聞きして懐かしくノスタルジックな気分になることはありますか? フランスでは「3615」という数字が、多くの人に80 ~ 90年代を思い起こさせる特別な意味を持つものとして認識
されています。ここ数年でじわじわと「3615」がマーケティングに活用されつつありますので、今月はその動向をご紹介します。

いまやインターネットのない生活は考えられないですが、フランスではインターネットが普及する以前(80~90年代)から「Minitel」(ミニテル)と呼ばれる家庭向け情報通信サービスが隆盛を誇っていました。電話回線にモニター付き端末を接続するだけで、ニュースの閲覧、鉄道・飛行機・ホテルの予約、ホームバンキング、成人向けチャットなど、現代を先取りしたようなサービスが利用でき、ピーク時にはサービス数が2万6000種に上り、900万世帯(人口の4割)が利用していました。インターネット登場以前にネットワーク文化がこれだけ広く普及していたことに驚かされます。

サービスを利用するには、インターネットのURLのように「番号とアルファベット」を入力するのですが、その番号が(多くのサービスで)「3615」でした。鉄道時刻案内は「3615+SNCF」、天気予報は「3615+METEO」等。インターネットの普及に伴い、2012年にサービスを終了しましたが、「3615」はサービスを呼び出すためのコードとしていまだ多くのフランス人の記憶に残っているのです。

ノスタルジア・マーケティングは
文化の非連続性にヒントあり

Minitel全盛期から四半世紀を経て、「3615」を冠したプロダクトやサービスが次々と立ち上がってます。昨年、10月にパリ11区に開業したクラブ「3615Bar」もその一例です。「80 ~ 90年代へテレポート」をコンセプトとした店内は当時、流行ったアイテム(アーケードゲーム他)で飾られ、ダンスフロアはユーロダンス(電子音楽)に乗って踊る30歳前後のミレニアル世代であふれかえっています。

アメリカの社会学者フレッド・デーヴィス(1979)は「人々のノスタルジア志向が強まるのは、文化的非連続が起こった後」であると指摘しました。インターネットが社会を大きく変える直前まで主流だったMinitelはこうした変化の象徴とも言え、その意味では、「3615」によるノスタルジア喚起の現象は時代の必然なのかもしれません。

最先端サービスが
必ずしも魅力的に映るとは限らない

オランダの社会心理学ヘールト・ホフステード博士は過去50年にわたり、国民文化の根底にある価値観の研究を続けてきました。この研究成果は様々な分野で活用されていますが、各国の消費文化の紐解きにも活用されています。

ホフステードモデルは6つの軸で構成されていますが、今回のMinitelの事例は「不確実性の回避」という軸の特徴を想起させます。不確実性の回避とは、その名の通り、ある文化の人々が不確実な未知のものに対してどの程度不安を感じるかを示したものです。

不確実性の回避が低い文化では、新しい技術やサービスはすぐに受け入れられますが、高い文化では、新しい技術に対して、人々は戸惑いを覚えるので導入が相対的に遅れる傾向にあります。

フランスの不確実性の回避のスコアは86で、これはフランスがかなり不確実性の回避の傾向が高い文化であることを示しています。実際、フランスでは他の先進国に比べインターネットの普及が遅れて推移してきました。これは、Minitelのような確立したサービスがある場合、不確実性の回避の高い文化ではそこからの迅速な転換が難しい事例に見えます。

【図】フランスは「不確実性回避」スコアが高い
【図】フランスは「不確実性回避」スコアが高い
出展)Hofstede Insights Group

新規性をアピールするか
歴史・伝統をアピールするか

インターネットの先進性や将来性が仮に分かっていたとしても、そうした先進性や将来性のアピールは、不確実性の回避の高い文化では戸惑いを持って受け取られる傾向にあり、プロモーションの効果が限定的になる可能性があります。

逆に言うと、不確実性の回避の高い文化では、保守的であることや専門性の訴求がより信用される傾向にあります。
「3615」のノスタルジア訴求は、昔からの継続した流れの中に新しいサービスを位置づけることであり、こうしたアプローチは不確実性の回避の高い文化ではより有効に機能するもののように見えます。


WRITER

山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -ホフステード・インサイツ・ジャパン代表取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。

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