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パリで働く、日本人マーケターのトレンドレポート(29)芸術性を排除しアーティストになった男 ― 広告業界に一石投じる

2021.02.04 山本 真郷 / 渡辺 寧

エトワール凱旋門への投影。 © John Hamon

エトワール凱旋門への投影。 © John Hamon

Vol.29
芸術性を排除しアーティストになった男
― 広告業界に一石投じる

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

パリの街中に顔写真を貼りだす
前時代的なアテンションの集め方

いまや一般人でもソーシャルメディアを通じて比較的、容易に社会からのアテンションを集めることができるようになりましたが、パリには前時代的な方法で有名になったジョン・アモン(John Hamon)という人物がいます。彼の活動は非常に独創的で、「広告」に対する根源的な問いを内包しているので、ご紹介したいと思います。

ジョン・アモンは自分の顔写真(19歳の時に撮影したポートレート)を使ったポスターを2001年から約20年にわたり、街中の建物やモニュメントに貼り続けていました。ボリューミーな髪型にメガネをかけ、微笑みを浮かべた顔写真の下に太いブロック体で「John Hamon」と書かれたポスターは、一見何かの広告か選挙ポスターのように見え、誰も気に留めていませんでした。しかし長年の露出を経て、彼の顔と名前は誰もが目にしたことがある状況になっていきました。そして、3年ほど前からパリジャン・パリジェンヌたちが「ところで、ポスターのジョン・アモンは何者?」と声を上げ始め、一気に注目を集める存在となったのです。

街中に貼られたポスター。©John Hamon
街中に貼られたポスター。©John Hamon

20年を費やした壮大な社会実験
ポスターを貼り続ける目的

ジョン・アモンは「プロモーションアート」という概念で活動をするストリートアーティストです。作品に顔写真と名前が使われているにも関わらず、その素性は未だ謎に包まれています。

かつて視覚美術を批判し、観念の芸術を提唱した現代美術の祖マルセル・デュシャンの影響を受けたという彼は、「アーティストという存在は(作品の視覚的効果ではなく)プロモーション(販促)によって生み出される」という立場を取り、作品の芸術性を限りなく排除した作品(自分の顔写真入りポスター)を屋外広告として掲示し続けていました。約20年を費やした壮大な社会実験と言えますが、ストリートアーティストとして世間に認知されたという意味では、その実験は成功したと言えるでしょう。

現在では、表現手法がポスターからプロジェクターによる投影にまで広がり、エッフェル塔やエトワール凱旋門での投影も行われています。彼のパフォーマンスは、バンクシーのように現代アートにおけるプロモーションの重要性について考えさせられると同時に、広告的なポスターが長年見過ごされてきた現実を考えると、商業広告の真価も問われてようにも感じられます

解釈の余地を残した表現
見るものの知性を試すアプローチ

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士は、国の文化を6つの次元の数値として表す研究を行ってきました。この研究にもとづいた分析によると、世界には7つの文化圏があることがわかっています。

フランスは、ベルギー・北イタリア・スペインなどと共に「太陽系(Solar System)」という文化圏のパターンにまとめられています。太陽系の文化圏におけるプロモーション表現には、抽象的なものがよく見られます。要するに、「何を訴求しているのかわからない」類の表現で、例えば、製品のベネフィットが全く書いていない表現や、ブランド名・ロゴをあえて極小サイズで示す例などが見られます。

【図】次元の組み合わせで6つの文化圏にわかれる
【図】次元の組み合わせで6つの文化圏にわかれる
出展)Hofstede Insights Group

こうした表現は見る側に解釈の余地を残します。表現としてはわかりにくいのですが、見る側は「解釈する」という知的な作業をするわけです。そして、そうした知的な解釈を行う機会を見る側に提供したということ自体が、そのプロモーション表現の価値を上げていると解釈できます。

ジョン・アモンの顔写真のポスターは、その表現の中にはメッセージは明記されていません。また、何を意図して貼られているのかも分かりません。それを読み解く行為は見る側に要求されています。人々は「ところで、ポスターのジョン・アモンは何者?」「あれは何を意図しているの?」と言って、解釈という知的な営みを行うこと
になります。太陽系の文化圏では、そのこと自体に価値が発生するわけで、こうしたプロモーションが成功しやすい文化的土壌を持っていると考えることができます。


WRITER

山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -ホフステード・インサイツ・ジャパン代表取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。

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