BLOGブログ
若手の早期離職を防ぐには? ホフステードの視点で考えるキャリア設計 – 歩きながら考える vol.58

今日のテーマは、文化的価値観の観点から見る若手のキャリア意識について。このシリーズでは、筆者が街を歩きながら、日々の気付きや研究テーマについてのアイデアを語っていきます。ふとしたタイミングで浮かんだアイデアや、知的好奇心をくすぐる話題をラジオ感覚で平日(月~金)毎日お届けしています。
こんにちは。今日も散歩がてら、移動時間を使って考えごとをシェアしようと思います。ゴールデンウィークが終わって1ヶ月が経ち、新卒の皆さんが会社に慣れ始めた頃かなと思うんですが、実はこの時期、早期離職の話題がチラホラ出てくるんですよね。今日は、2025年5月20日の日経新聞の記事をきっかけに、若手の離職問題と、それを防ぐためのアイデアを、ホフステードの文化次元モデルを使って考えてみます。
若手の離職、32.3%のリアル
歩きながらニュースを振り返ってると、厚生労働省のデータが頭に浮かびました。2023年のデータで、大卒新入社員の3年以内の離職率は32.3%。3人に1人以上が、入社3年で会社を辞めてるって、まあまあ多いですよね。しかも、日経新聞の記事によると、入社3カ月以内の超早期離職も増えてるみたい。せっかく採用した新卒が、1カ月そこそこで辞めちゃうって、企業側も若手本人も、なんかちょっと勿体ないようにも思います。
私も新卒で入った会社、7年くらいで辞めてます。僕らの就職の時代は、アジア通貨危機を大学時代に目撃し、終身雇用が当たり前じゃなくなったんだな、という感覚がありました。そこから時間も経ち、今の若手はもっと個人主義的で、「自分のキャリアは自分で切り開く」って意識が強いように思います。じゃあ、企業はどうやって彼らを引き留め、活躍してもらえばいいのか? ホフステードの文化次元モデルをヒントにして、ちょっと考えてみます。
ホフステードで読み解く若手の価値観
ホフステードの文化次元モデルって、国の文化を数値で表すフレームワークなんですけど、日本は面白い特徴があるんです。個人主義のスコアは46で、集団主義と個人主義のちょうど中間。この感覚はなんだかんだ今でも続いています。昔ながらのメンバーシップ型雇用——つまり、会社に長期間雇用されることを前提に働くスタイル——が日本の文化に合ってたのかもしれません。一方で、経済が豊かになるにつれて、若手の価値観は個人主義にシフトしてる。特にZ世代は、「自分軸」でキャリアを考えてる人が多いですよね。
さらに、日本は男性性がめっちゃ高くて、スコア95。競争や達成、成功を重視する価値観が強い。不確実性の回避もスコア92で、失敗を避けたい、明確なルールや計画を求める傾向がある。これ、若手の行動にもモロに出ているのをよく見ます。例えば、「失敗したくないから正解を教えてほしい」って声、めっちゃ聞くじゃないですか。これは不確実性の回避の高さと男性性の文化における自然な声に聞こえます。また、「自分でキャリアを切り開きたい」というのは個人主義と男性性の文化の自然な感覚ですね。
3年ロードマップで離職を防ぐ
で、ここからが本題。ホフステードのモデルをヒントに、若手の離職を防ぐ具体的なアイデアを考えてみました。キーワードは「3年ロードマップ」。
若手の個人主義的傾向が昔より高いとすると、企業は一人ひとりに「あなたはどういうキャリアを築きたい?」とちゃんと聞いた上で、それに対応する必要がある。そして、不確実性の回避が高いから、曖昧な話じゃなく、具体的なプランを提示する。例えば、入社時にこんな風に伝えるようなイメージ。
「3年後にこういう状態で活躍して欲しいと思っていて、そのために、最初の1年はこういう仕事経験が必要。下積みに見えるかもしれないけど、この経験だとこういうスキルと知識が身につくはず。実際に先輩でこういう活躍をしている人がいる。2年目はこの仕事。そして3年後には、こんなポジションを目指せるよ。その先は、複数の選択肢が出てくるから、君の責任で選んで次のステップに進んでほしい。」
ポイントは自律性・具体性・チャレンジ性。自分で成長が見込めるチャレンジングなタスクに向き合い、結果として具体的な活躍する姿が想像できるということ。これは、個人主義 ✕ 男性性 ✕ 不確実性の回避 の価値観の掛け算です。 今の若手の価値観が上記だとすると、この対応は価値観とバッチリ合うはず。「この会社、いいな」って感じてくれるかもしれません。
一つだけ注意するとすると、競争志向(男性性)と調和とワークバランス(女性性)の価値観は、若手の中でもバラついているように見えること。男性性が高い価値観の若手には、挑戦的な目標やストレッチタスクを用意する。一方で、女性性の価値観を重視する若手には、柔軟な勤務体系や、働く部署の雰囲気、チームの風土をしっかり説明する。「このチームで3年間、こんな感じで働いてもらうよ」って、理由もセットで伝えると、納得感が上がると思います。
中期的見通しを人事が語る
実は、私が新卒で入った会社を選んだ理由も、まさにこれだったんです。いくつか内定もらった会社の中で、一番具体的に「入社後のキャリアステップ」を話してくれたのが、その会社だった。私、けっこう個人主義的な価値観を持っていたので、3年後、5年後のイメージを明確に示してくれたのが、良いなと思ったんですよね。
あの時の人事の話がなかったら、別の会社選んでたかもしれないです。ほんとに。この経験からも、若手には「見える未来」を提示するのが大事だなって、実感してます。
若手と企業の未来をつなぐ
若手の離職問題って、ただ「辞めないで!」って言うだけじゃ解決しないですよね。ホフステードのモデルを元に考えると、若手の価値観——個人主義、競争志向 or ワークライフバランス、失敗回避——が見えるから、それに合わせたコミュニケーションを設計する。そういうことが組織には求められるのではないかと思います。
もし、このアイデアが「いいね!」と思ったら、ぜひSNSでシェアして、感想や「ウチの会社、こんな施策やってるよ!」みたいなコメントもらえると嬉しいです。
というわけで、今日は若手の早期離職とホフステードの視点で考えるキャリア設計を、歩きながら話してみました。家に着く前に、なんとかまとまったかな(笑)。最後まで読んでくれて、ありがとう。また次回の「歩きながら考える」で会いましょう!

渡邉 寧
博士(人間・環境学)
代表取締役
シニアファシリテーター
慶応義塾大学文学部/政策・メディア研究科卒業後、ソニー株式会社に入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事。約3年の英国赴任を経てボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。2014年に独立。2025年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は文化心理学、組織行動。最近の研究テーマはAIの社会実装 × 職場の幸福感 × 文化の違い