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パリで働く、日本人マーケターのトレンドレポート(14)異文化コミュニケーションのツボ「フィードバックの仕方」には違いがある

2019.07.31 山本 真郷 / 渡辺 寧

異文化コミュニケーションのツボ 「フィードバックの仕方」には違いがある

Vol.14
異文化コミュニケーションのツボ
「フィードバックの仕方」には違いがある

ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

問題点をストレートに指摘
フランス流のフィードバック

海外において部下のマネジメントに携わると、初めは誰しもが「文化の違い」に戸惑うものです。本連載の10月号の記事では日本とフランスにおける「就業時間」に対する認識の違いについて触れましたが、部下とのコミュニケーションの取り方も大きく異なります。今回はその最たるものとして挙げられる「フィードバックの仕方」についてご紹介します。

仕事における有効なフィードバックとは、スタッフに業務の成果や行動に対する評価結果を伝えた上、本人のモチベーションを高め成長を促すものです。一方で、やり方を間違えればスタッフのやる気が削がれ、ひいては組織全体にも影響を及ぼしかねないため、フィードバックの仕方には細心の注意を払わなければなりません。それが異文化環境であれば、なおさらです。

先日、FUJIFILM France現地スタッフの考課面談(ボーナスの査定目的)を、フランス人幹部に協力してもらい実施しました。ひとり目の面談相手は、数字目標は達成したものの、チームのマネジメントがおろそかになっていたプロダクトマネージャー(PM)でした。

面談が始まると、フランス人幹部は業務成果の評価を事実に則して淡々と説明した後、「君は部下のマネジメントがまるでできていない。給与に見合った役割を果たせないなら、君の守備範囲を見直させてもらう」と単刀直入にネガティブ・フィードバックを行いました。すると、そのPMは眉をひそめることもなく「すぐに改善しますので、ご安心ください」とさわやかに答えて退出していきました。

フランスは個人主義文化のため、個人の意見を相手にはっきりと伝えますが、かつて紳士・淑女の間で礼儀正しいふるまいが規範とされていた歴史の影響でオブラートに包んだ表現も多用します。営業出身でエネルギッシュなフランス人幹部も普段は周囲に気を遣う一面があったので、面談時の彼の伝え方は少し意外なものでした。面談後、彼に「ずいぶんとはっきり指摘したね」と言うと、「はっきりと言った方が相手のためになる。こういう時はアメリカンスタイルでストレートに伝えるんだ」と言うのです。

私の受けた印象はアメリカ人よりもストレートでネガティブだというものでした。日本人が同じことを伝える場合、「数字をよく達成してくれました。部下のマネジメントを強化すればさらにレベルアップできるでしょう」と、数字の目標達成を労い、部下のマネジメント問題はほのめかして指摘するでしょう。

今年6月、マクロン大統領が公務で外出した先で、中学生の少年に愛称の「マニュ」と呼び掛けられた際のこと。大統領は人々との握手を中断し、少年に「公式行事では礼儀正しく振舞わなければいけない。私のことは大統領、もしくはムッシューと呼ばないと」と諭し、欧州域内で話題になりました。日本の首相であれば笑ってやり過ごしていたのではないでしょうか。

権力格差の大きい文化では
上司は権威ある存在

フランス人上司のフィードバックが厳しく聞こえる背景には、文化の差があります。

オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステードは、国の文化をスコア化する研究をしています。この研究によると、フランス文化の特徴のひとつに、権力格差と個人主義のスコアがともに高い、ということがあります。米・英・独といった他の主要欧米諸国は、個人主義ですが、権力格差は小さい文化です。そのため、上司と部下は割と対等な立場で、例えば部下が上司を、「Hi John!!」とファーストネームやニックネームで呼ぶことも珍しくありません。

一方で、フランスは権力格差の大きい文化です。そのため、上司は権威を持った存在として見られ、部下からはしばしば怖い存在とみなされています。そしてフランスは同時に個人主義文化でもあるため、物事をはっきり伝えます。「権威を持った存在」が「はっきり伝える」ため、フランス人上司のフィードバックはしばしば厳しいものとなる傾向にあります(逆に、アメリカでは厳しいネガティブ・フィードバックは嫌われます)。

【図】アメリカ合衆国とフランスの「権力格差」「個人主義」スコア
【図】アメリカ合衆国とフランスの「権力格差」「個人主義」スコア
出展)Hofstede Insights Group

文化によって、自然だと感じられるフィードバックの仕方は変わるので、海外でビジネス展開をする際には注意が必要です。


WRITER

山本 真郷 / 渡辺 寧

- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -ホフステード・インサイツ・ジャパン取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。

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