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外出制限が出て以来、ジョガーの姿が増えたパリ。
Vol.32
新型ウイルスでジョギングブーム?
― 非常事態下で露わになる国民性
ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。
パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。
トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。
外出制限を拡大解釈
フランス人の国民性
世界で猛威を振るう新型コロナウイルス。この世界的な感染状況を見るに、人間という生物だけが地球上をあっという間に自由自在に動き回れる(グローバリゼーションや科学技術)特権を保持している状況を、自然界が許さないという図式に思えてなりません。フランスでは感染拡大を受け、3月15日から食料品や薬などの生活必需品を扱う以外の全ての小売店舗が休業となり、17日から外出制限が始まりました。今回は、生活や仕事が制限される「非常事態下で国民性が露わになる」というお話です。
「外出制限」はイメージし難いと思いますが、内務省のウェブサイトからダウンロードできる「特例外出証明書」に個人情報と外出理由を記入し、身分証明書と併せて携帯すれば回数制限なく外出できる、というのが当初のルールでした。
国民の自制に基づいた措置と言えますが、そこは何事もうまくやり抜ける術「システムD」(本連載4月号で紹介)を身につけているフランス人のこと。蓋を開けてみれば、セーヌ川沿いがジョギングや散歩を楽しむ人々で賑わい、テレワークになったことを利用して、旅に出かける人まで出てくるなど、特例を拡大解釈した不必要な外出が横行しました。このため、現在では外出回数、時間、移動距離など制限が強化され、罰則も厳しくなっています。
ちなみに、私が住むパリ15区では平時よりもジョガー風な人が増えた気がします。
ジョギングは外出理由として認められているため、ひとまず運動着で外に出れば自由に動き回れるだろう、と考える人が相当数いることに加え、普段運動しない人もジョギングを始めているといった話もあるので、皮肉にも外出制限下でジョギング人口が増えているのかもしれません。
自粛を呼びかけても
ボディタッチは止まらない
フランスでは「ビズ」(頬へのキス)や「握手」といった接触型の挨拶の習慣がありますが、当然ながら感染予防として自粛が呼びかけられています。これは比較的守られ、外出制限・テレワークが始まる直前の当社オフィスでもビズや握手をしそうになり、慌てて回避する同僚の姿が見られました。巷では「もう気持ち悪い同僚男性とビズしないで済む、最高!」と女性たちがツイートし始めるなど、別の意味でビズ自粛を支持する声も上がり、話題になりました。
しかし、フランス人にとって挨拶は大切ですし、日頃の習慣を止めるのも簡単ではありません。しばらくすると、ビズや握手の代わりに、片足の側面同士を合わせたり、肘と肘を合わせたりする新しいビズが広がり始めました。形を変える習慣もあれば、新たなムーブメントも広がっています。外出禁止措置で静まり返ったパリの住宅街で、毎晩8時になると拍手や歓声が鳴り響いています。市民が窓辺に立ち、新型ウイルスと闘う医療従事者に向けて拍手や声援を送っているのです。こうした一体感に包まれる中で、フランス人が好んで口にする「ソリダリテ」(solidarité:連帯・団結)という言葉が思い出されます。
コロナへの対応から見えた
国ごとの文化の違い
新型コロナウィルスの感染状況と国民文化には関連性があるのかどうかというのは非常に興味深いテーマではあります。
特に、日本は他の欧米先進国に比べて新型コロナウイルスによる死者の数が低い推移を保っているように見えたことから、日本文化の特殊性が影響しているのでないか?という議論もありました。
オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステード博士は、文化には慣習として存在する目に見える部分と、価値観として存在する目に見えない部分があると述べました。フランスにおけるビズや握手のような挨拶は慣習としての文化であり、これが感染拡大に影響しているのであれば、新型コロナウイルスの拡散には文化の影響があったということになります。
一方で、文化を構成している大きな要素は目に見えない「価値観」です。この国ごとに異なる価値観が新型コロナウィルスと関係しているかどうかという所が非常に興味深い所です。
ホフステード博士の息子であるヤン・ホフステード教授は「パンデミックコントロールに関してホフステードの文化次元が関係するかどうか、明確なことを言うには早すぎる」と前置きした上で、文化の影響についての考察を始めています。
各国の新型コロナウイルスへの政府対応には文化の影響が見え隠れします。法と政治体制の違いがあるので、一概に文化の影響と断定することは出来ませんが、フランスが属する「太陽系(Solar system)」という文化圏では、中央集権化された即時の対応を取ることが強いリーダシップと認識されます。特例外出証明書の携帯を義務付け、外出回数や移動可能距離を制限する政府と、それをすり抜けようとする市民という構図は、権力格差と個人主義のスコアが同時に高い、フランスらしい状況に見えます。
山本 真郷 / 渡辺 寧
- 山本 真郷 プロフィール -FUJIFILM Frances(フランス現地法人)
Directeur General Adjoin慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士フイルムに入社。入社以来、写真事業に従事し、チェキ(instax)のブランドマネージャー時代に数々のエポックメイキングな商品・販促を企画。著書に『非営利組織のブランド構築-メタフォリカル・ブランディングの展開』(渡辺との共著)。- 渡辺 寧 プロフィール -代表取締役慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、ソニーに入社。7年に渡り国内/海外マーケティングに従事した後、ボストン・コンサルティング・グループに入社。メーカー、公共サービス、金融など、幅広い業界のプロジェクトに4年間従事。現在は独立し組織開発での企業支援を行う。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程在籍。